同行二人
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冬に会った時には見てる方が寒々しかった男の格好も、夏に見ればそれなりに違和感がない事を伊達は知った。違和感を余り感じなかった理由はきっと今日の暑さのせいだと信じたく、反射的に男が一枚羽織ったきりのジャケットから目を逸らす。
「夏は暑うて好かん」
そう思わんかアンタ、と真島は蛇柄のジャケットの裾をぱたぱたさせながら漏らす。
「二月にも寒いとか言ってただろうが。ちゃんと服を着替えろ」
「オッサンかていっつもそんなコート着て暑うないんか、気持ち悪」
「お前に言われる程じゃ無ェよ、夏物だ」
伊達が言い返せば、は、と笑っているのか怒ったのかわからない調子で真島は息を吐いた。
「そんなんわからんわ。わしアンタの事なんて知らんし」
言って真島は、へら、と笑う。昼時にも関わらず、路地裏が暗いせいで表情はぼやけた。
夏が嫌いだとか、知らないとかいう事を、何でもないように言いきれる真島の強さを伊達は羨ましく思うこともあれば、疎んじることもある。どうせ本質的には大して違わないのだ。
「お前は勝手でいいよなァ」
「オッサンがめんどくさすぎるンやろ?」
頬を掠める黒革は夏だというのに温度がなかった。路地の奥にまで風は吹き込んで来ず、息苦しさと蒸し暑さでぐらりとゆれる足元を伊達は踏みつけた。
暗がりで言葉を交わそうが触れようが何をしようが、一歩明るい日差しの下に出たら慣れない光に眩んで何も見えなくなるに違いない。それでもこのけだるい関係を厭う訳でもなく、伊達はさながら他人事のように困り果ててみる。
あー、と急に宿題を思い出した子供のような調子で真島が口を開いた。
「アンタが、そーいう顔するのもおもろいけど、好かん」
「……俺に、どうしろって言うンだよ、」
真島ァ、と呼んだ言葉は声にならず伊達の喉で消えた。
「そんなん、ワシにもわからんわ」
はは、どうしよ、と真島は普段の何分の一くらいの力しかないように笑い、途方に暮れながらも、いい気味だと僅かに伊達は思った。
悩むならいっそ道連れがいい。