デッドアライブ
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盗人稼業はもうずっと前からの生業だが、いつのまにか殺しの仕事にも慣れてしまった事にコヨーテは軽く落ち込んだ。同盟に入る前に人を殺した事が無かった訳ではないが、それとこれは別なのだと思っている。知らない相手に向けても躊躇無く引き金を引ける事はあまり知りたくなかった。
今日の仕事のせいで気に入りのシャツに血が飛んでもう着れないのも気を重くする原因の一つだ。改造リボルバーも考え物だ、腕だの頭だの弾け飛んで色々と汚らしい。
ガルシアンに交代し部屋に戻ろうとすれば、随分と手間取ってたじゃねェか、とダンが珍しくにやにやと笑いながら話しかけてきた。
「……うるせェよ、ほっとけ」
疲れた声でコヨーテは返す。嫌悪感を顕著に表しては見るが、この男には無駄なことだとわかっている。
「まあ、最初に比べりゃマシになってきたがな」
「俺はあんたと違って殺しが本業じゃねェンだよ」
それでアレか、と言ってダンは声を上げて笑う。
「テメェもいい具合にイカれて来たな」
わざとコヨーテの癇に障る口調でダンは言った。
存外に、分かりやすい男だとコヨーテは思う。要するに今回は出番が無かった事に冠を曲げてちょっかいを出しているだけなのだ。だからといってダンがコヨーテの神経を逆撫でする事は変わらないが。
コヨーテは一歩踏み込むと、ダンの胸倉を掴んで睨みつけた。一発殴りつけたい衝動を押さえ込む。
やめろ、シャツが皺になると言いながら欠片も動じた様子の無いダンにいよいよコヨーテは苛立って、ふざけンなッ、と吐き捨てた。
「俺がイカれてンならテメェはなんだ、十二分に狂ってるじゃねェかッ」
ああ、そうさと悪びれもせず胸倉をつかまれたまま、ダンは嘲笑を浮かべる。
「それがどうかしたか?」
男は笑う。声色に嘲りと自嘲が混じっていて、コヨーテは何も言えなくなる。
それにな、とダンは言った。
「テメェとこうなってる時点でとっくにまともじゃねェよ、盗人野郎」
ぐっと左手で後頭部抑えられて、ダンの顔が近づいてきて次の動作を予想しコヨーテは軽く口を開けた。唇に歯を立てられる。
無神経に入り込んでくる生温い舌にもとっくになれた。美人も三日見れば飽きるというが、こういういかれた所業もそれに当てはまるのかとぼんやりコヨーテは考える。
最も不愉快なのは目の前の横柄で傲慢な男でも、即座にその頭を撃ち抜く事もしない腑抜けた自分でもなく、殺しても殺されても誰も彼も生き返ってくるこのふざけた現実なだけに始末が悪い。
コヨーテは目を逸らし床の模様を見つめた。自分が殺し屋でも何でもなく、ただのコヨーテ・スミスであった頃を思い浮かべようとやっきになった。ロスの裏路地の淀んだ空気だとかねぐらにしてた古アパートを、縋るように記憶の底から掘り起こす。
上の空だったのがわかったのか、がりとダンが舌を噛んできた。





お題「記憶の底を抉って探した」改題・改訂。
うちの暴君と盗人は始終こんな感じです。コヨ苛めが趣味な暴君。わかりながら乗る盗人。たまに反撃。