注意書き
・2の後です
・要するに二人とも死んでます
・というか地獄に居ます
・ここまで来るとパラレルに近いです
それでも良ければどうぞ↓













それでは話の続きを
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目の前に広がるのは、ただただ広々とした平地だ。
天使とか悪魔とか神とか仏とか、そんなやさしいものは存在せず、わかるのはとりあえず死んだらここへ来ます的なシステムぐらいだった。あと多分地獄だな、という事だ。なぜなら、自分が来ている。
そんな事を考えながら、高島は膝を抱えるようにして座り込んでいた。変わり映えのない景色にも飽きてきた頃、おい、と後ろで声がした。
振り向けば、自分を殺した男が立っていた。
死ぬ直前の格好でなく、いつもの趣味の悪いコートを羽織っていた。そういえば幽霊は服来て出るというしな、と妙な所で高島は納得する。
名前が一瞬出てこなくて、妙に焦った。りゅうじ、と口に出してから男がよォ、と返事をするまでがやけに長く感じられた。
「お前、いつ来た」
「ん、ついさっき」
コートのポケットに手をつっこんだまま、龍司は笑いを堪えている時のように口元を緩めている。高島がしばらく黙っていると、にやにやと笑いながら話し出した。
「念のため、しばらく待っとったけど来ェへんかったわ」
「誰を」
「桐生と、妹や」
ざまみろ、と龍司がふんぞり返って得意げに笑う。よっぽど言いたかったんだな、と高島はため息をついた。死んでも変わらない辺り、呆れながら感心する。
ひとしきり笑った後、龍司が腰を屈めて手を伸ばしてきた。
「ほら、座っとらんと行くで」
その自信たっぷりの物言いについ、ああ、と返事をし立ち上がりかけてから、高島は呆れて手を払った。あ、お前何すんの、と龍司の口から場違いに間の抜けた声が漏れる。
「どうして、私がお前と行かなきゃいけないんだ。第一どこへ行く気だ、ここにいたって私は構わない」
「ここ居たって何もせんなら、別にどこ行ってもええやろ」
すかさず返されて高島が言葉に詰まれば、ぼそりと独り言のように龍司はつぶやいた。
「探しとった」
「はァ?」
なんで、地獄まで来て誰かを探したりするんだ。大体人を探すのなら、もっと他の奴にしろ。ほんのついさっき殺した奴が、ほんのついさっき殺された奴を探しになんて来るな。
吐きかけた悪態は、龍司が急に右手首を掴んでき起こした事で簡単に潰された。龍司の大きい左手が高島の手首に食い込む。
「おい、離せ、馬鹿力ッ」
高島の声など聞こえてないように、のしのしと大股で龍司は歩いていく。どこに行っても同じような景色しかないのに、どこかへ向かって歩いていく。
「こっち来て、だらだら歩いてたら色々思い出したわ」
背を向けて、高島を引っ張りながら龍司は話し出す。言葉尻に疲れが滲んでいる。高島はその後ろを、不貞腐れた顔でついていく。握られた手首が痛い。
「昔、ワシが捕まる度にお前いっつも迎えに来たやろ」
急に龍司が立ち止まったので、引きずられるように歩いていた高島は思わずつんのめって、龍司の背中に顔をぶつけた。
「いつの、話だ」
「高校、ン時」
龍司が補導される度に連絡を受けて引き取りに行くのは、家庭教師という名の世話役だった高島の役目だった。警察官に適当に頭を下げ、図体ばかり大きい子供の頭を申し訳程度に一つ小突く。
「帰るぞ、ッて座っとったワシに手ェ出してから迎えの車乗るまで、お前ずっとワシの手首捕まえとった」
親父は来んのか。仕事だ。そうかい。帰るぞ。
署内のすっかり見慣れた廊下を、足音を響かせて歩きながら、毎回同じ会話をしていた。手を掴まれた龍司は、日ごろの凶暴が嘘のようにおとなしかった。
「それ、思い出したンや」
そう言って背を向けたまま、龍司はまた歩き出す。手首を掴まれたまま、高島もつられて歩き出した。二人でてくてくと地獄を歩いている。
「そしたら、なんか顔拝んでやりたくなった」
「……下らない事ばかり、良く覚えているんだな」
一瞬だけ息を呑んで表情を固まらせた後、いつもの皮肉げな顔を作って高島が力なく笑ってやれば、そんなもんばっかりや、と龍司も振り向いて安心と諦めが混じり合った顔で笑った。どこかで見た顔だ、と思ってから、ああ、迎えに行った時いつも見た顔だ、と高島は思い出してまた笑いが漏れる。
「何がおかしいんや」
見咎めて、龍司が片眉をぴくりと上げて聞く。
「いや、大した事じゃない」
いまさら、何を言ったところで遅い。それを言うためには、あの廊下まで戻らないといけなかった。押しあがって来た言葉を全部飲み込んで、高島は左手の人差し指で龍司の左手の甲をつついた。
「お前じゃあるまいし、逃げやしないから掴むな」




握手祭その1。
予想外に最終回ぽい。