ロータスランドインザダート
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わしなァ、綺麗なもんが好きなんや。
へらへらと笑いながら椅子を揺らして、テーブルに両足を乗せたまま真島が言った。
ふん、と流して伊達はグラスを口に運ぶが、次の真島の一言で噎せそうになった。
「桐生チャンとか、アンタとか、な」
「テメェ……もう酔ったか?」
「アンタやあるまいし、これっぽっちで酔う訳無いやろ」
言って、真島はくいとグラスを開けた。ならイカれたか、と伊達は悪態をつく。
「ひっどいなァ、オッサン」
褒めとるんやと言ってテーブルから足を下ろすと真島は伊達に酒を勧める。とくとくと注がれていく液体を眺めながら伊達は呟いた。
「遠まわしに馬鹿にされてる気がするンだがな」
「そんな事無いで、ほんま」
「……俺もお前も泥ン中だ。大して変わりなんてしねェよ」
ヤクザとか警察とかそんな簡単な話じゃねェ、そこで言葉を切って煙草を灰皿に押し付けた後、伊達は吐き捨てる。
「この街全部泥の底みてェな所じゃねェか、綺麗なもんなんてどこにあるッてンだ」
汚い街だ。絶えずどこかで喧嘩が起こり時には死人が出る。一つ裏の通りに入れば目を覆いたくなるような事で溢れている。
「……わかっとらンなァ、おっさん」
「ヤクザの言い分なんて、これっぽっちもわかりたくないな」
伊達が不機嫌を前面に押し出して答えれば、喉を鳴らして笑い真島はウィスキーを一気に流し込んでまた注いだ。その様子も不愉快で、テーブルの下の向かいの足を伊達は蹴飛ばした。
知っとるかアンタ、蓮の花ッて泥ン中で咲くらしいで――ウィスキーがちゃぷちゃぷ揺れるグラス片手に大笑いしながら真島は言った。体を派手に揺らすものだから、コップから酒がこぼれて手首にかかっている。勿体無いと頭の隅で伊達は思った。同時に呆れが来る。
「……お前、それが言いたかっただけだろ」
「大当たりィ」
笑う男の片目の焦点はふらふらしてすでに合っておらず、もう今日はまともな話は出来ないと伊達は諦めかける。なァ、と腕を掴まれた。振り解けない力に伊達は身を硬くする。しまった、と思った。
この男が何を次に言うのか、一言一句聞き漏らさないように息を呑む選択肢しかもう残されてはいない。
「アンタに、そっちは生きにくいやろ」
そんな事は無ェよ、と伊達は言い返す。それが本心だろうが出任せだろうが、そんな事はどっちでもよかった。ただこの男の言う事を否定する。それが自分と真島の間の線引きなのだと伊達は勝手に思っている。蓮は水面下の根は全て繋がっている、なんて伊達は余計なことまで思い出した。真島が自分を蓮だというのなら、きっとこの男もそうなのだ。
泥の中で手を取って踊る。悪態を吐き合う。息を止めて互いが互いだとわからなくなるくらい泥まみれになってどこまでも行く。それはそれで悪くない、と考えかけて思考を止めるために伊達は酒を呷った。