いつ来ても悪趣味だな、と牙刀が馬鹿高いビルの社長室に来るたびに抱く感想と言ったらそれくらいである。
何週間も間は空いていない筈なのに、間違い捜し程度から模様替えと言ってもいい程まで、いつ来ても部屋にあるものが違ったり、部屋の主のやっている事が違う。そしてそれらすべてに共通する事柄と言ったら、馬鹿げている、それだけだ。

テーブルを挟んだ向こうで、60度程の角度で切られた真っ黒いケーキが金色に光るフォークで分割されては突き刺されて、男の口元に運ばれる。
口端についた欠片を払う人差し指、微かに漂うカカオの匂い、皿やカップやフォークが触れ合うかちゃかちゃとした金属音まで、必要も無いのについ目で追ってしまう。
契約上の用がある訳でもないのに、今すぐにも席を立とうともしない自分に対してまで、じぶじぶと腹の底がいぶされるように腹が立ってくる。
ふい、と思い出したようにフォークの先が向けられた。
「食べるか?」
「いらん」
一瞥して牙刀は吐き捨てる。
「1ホール買ったんだが」
「馬鹿か」
つまらんなぁ、とギースは言いながらまた菓子を小さくして口に運ぶ。その菓子の名前を思い出して、ああ、と思わずため息が漏れた。相変わらず、ギースは牙刀の想像も及ばない程に馬鹿げている。それを心の底から楽しんでいる。
これといった恨みもないが、漠然とギースが不幸になればいいのにとたった今牙刀は願った。
「……暇つぶしに人を付き合わせるな」
「私にとっては意味があるんだがな」
「俺の知った事か」
「貴様が理解出来ないだけだろう?」
気に障ったなら済まなかった、と欠片もそんな様子が見えない笑顔を浮かべて、ギースはかちゃりとフォークを皿の隅に置いた。自分の反応に笑いが堪え切れないのか、左頬が僅かに引きつっている。牙刀は一つ舌打ちする。余計にギースの笑みが深くなる。
見透かされている。ただそれだけなのに、手も足も出ない相手に立ち上がれなくなるまで叩きのめされるのに似ていて、それは不愉快でしか無い筈なのにどこか痛快ですらあった。





「ガトーショコラ!!(゚∀゚)
「いい加減にしろ……('A`)」