何かに似てると思ったのですよ、と出会いがしらに言われた。 世間話とは違う。そんな生ぬるいものとは似ても似つかない。孔明の目玉はぐるりと濁っていて、そこに何らかの感情が溜まっていることくらいは樊瑞にもわかるのだが、さてそこにあるものが何なのかまではわからない。 「ああ、あれに似ていますね」 返答を待たずに勝手に話を進めて、急に思いついたとでもいう風に、ぱん、と孔明がふざけた仕草で両手を叩いた。その直後、羽扇の向こう、斜め下から見透かすように視線を向けられる。 「人間に」 放るように呟かれて、その言葉の意味を理解した直後樊瑞の背中を嫌な汗が伝う。 「悪い冗談はやめろ」 「いかにも」 これは失礼しました、と口元を羽扇で隠して慇懃に孔明は頭を下げた。そのまま歩き去ろうとするので、慌てたように樊瑞は声をかける。 「孔明」 なにか、とくるりと振り向かれて光のない目玉で睨まれる。男の目は瞬きすらしないのではないかと、一時期樊瑞は疑っていた。それほどに笑っていない時の孔明の視線というものは、作り物めいていて底冷えがするほど透明だ。 「人の事を化け物扱いするなら、お主は、お主自身を、」 「樊瑞殿が思われている通りですよ」 途中で遮られて、樊瑞は言おうとしていた言葉を飲み込む。嫌らしいとも言える笑みを浮かべて、孔明はすぅっと目を細めた。 「こんなところで平気でいられるのは、化け物ぐらいなものですよ」 もうすっかり興味を無くした口調でぼそりと呟いて、孔明は背を向けて今度こそ振り向かなかった。 人間に似ている。似ている、とはそれ以外であるという事だ。 ここでは右を向いても左を向いても化け物みたいな事をしたり考えている輩ばかりだから、孔明がああ言うのも致し方ないといえば致し方ないのかもしれない。 けれども胸中のやりきれない思いが消える訳もなく、逃げるように廊下を後にした。 樊瑞が置いてかれて逃げてばっかな件 |