望みはとうに潰え(山崎・ビリー)
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あの人はもうすぐ来るから待ってろ、とビリーが言うので山崎はソファに沈み込むように腰を落とした。
何週間か前に来た時と、部屋にあるものがまた変わっている。模様替えと言って済まされない程に、物が無くなっては増えている。見まわしているのが気になったのか、扉近くに立っていたビリーが近寄って来た。
「あの人の気まぐれだ、深い意味考えてンなら無駄だぜ」
「前にやたら見せてきた、変な土産もんはどうしたんだよ」
「飽きたってさ」
遥か昔に馴れてしまった様子で言いきって、ビリーは山崎の座っているソファの背もたれに肘をつく。それでも決して腰を下ろしはしない。人の家の床だのたまに机だの地べたにも平気で座る男だが、この部屋にいる時だけは何かに座っているのを見た事がない。
あの男の前でだけ異様に礼儀だのを重んじるビリーが、山崎にはどうにもその感情やら思考が理解出来ないで困る。
「ビリー」
「あ?」
「お前、あんなんが上司でいいのか」
あんな、の後ろに化け物とつけるのは、ビリーがやかましいくらいに怒りそうなのでさすがにやめた。あんな、人の全てを見透かしているような、興味と好奇心のみで動いているような、貪欲な化け物が上司でいいのかと。
15年前の俺に言え、とすっかり諦めきった目をしてビリーが呟いた所で、ギースが部屋に戻ってきた。



お互い様(ギース・山崎)
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物好きだな、と言ったら露骨に嫌な顔をされた。
「何の、話だ……」
「あれ、と出来てるんだろう?」
そう平然と返してやれば、山崎は顔をしかめて舌打ちした。知るか、と吐き捨てて、荒々しく足を組みかえた。それでも視線は逸らしている。
「なんかそうなっちまったんだから、仕方無ェだろ」
で、なんだ、裏切られるかとでも心配になったか、と無理に作った余裕で山崎が聞いてくるが、鼻で笑い飛ばしてやる。
「あれが、私を裏切る事があると思っているのか」
「へぇ、随分信頼してンじゃ無ェか」
信頼などの安い言葉ではない。ギースは、あくまで自分がギースとして振る舞っている限り、ビリーは決して裏切らない事も裏切る理由が無い事も知っているだけだ。
だから別に興味も無いのだが、山崎にはそれがわからないのかいぶかしげな視線をぶつけてくる。
「日本でこういう時に言う言葉があっただろう、えーと、ムスメさんを僕にクダサイ……?」
「テメェ、頼むから日本語喋ンな……」
天井を仰ぐように体をそらして、山崎は盛大にため息をついた。しばらくそうしていたが、ふと思いついたように屈みこんで手を前で組んでから、なぁ、と深刻な顔で呟いた。
「あいつ、くれっつったらくれんのかよ」
「……あれがよしとすると思うか?」
「じゃあ無理なんじゃねェか」
期待が外れたというのに、どこか安心したように山崎は口端を歪めて笑った。



果てと果て(ビリー・ギース)
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同じ顔をしていると思った。
日本のものだの気に入ったものだのを手に入れた時と、同じ顔でギースは笑っていた。たった今ビリーが渡した資料を興味深そうに見ては、何かを見つけたのかたまに笑みが深くなる。
「一応、それでこの街で分かる事は以上です」
「一応とは?」
「あとは九龍とか日本とか行かないと無理ッすね」
御苦労、と言いながらギースの手は書類をめくっては戻したりとせわしない。ギースのやることを理解しようとやめたのは、もう覚えていないくらい昔だが、それで正解だったとビリーは思う。
「多分あんたが考えている程、楽しいもんじゃないですよ、あれ」
特に何かきっかけがある訳ではないが、たまにあの男は全ての期待やら希望をどこかにかなぐり捨ててきたような目をしていることがある。あくまで一過性のもので、その内元の位置に戻ってくると経験上ビリーは知っているので、そういう時は関わらないようにしているが、たまに、もうこれから先もずっとあの目を山崎がしていたらどうしようとは思う。
それでも、それがどうかしたか、とでも言いたげにギースは書類をぺらりとめくって、ビリーを見やる。
「だから、面白い」
「……今、初めてあいつに同情しましたよ」
見下ろせばギースの目は相変わらず楽しそうにぐるりと光っていて、この人にきっと生涯、あの目は理解出来ないのだろうと思った。ひどく遠い所にこの二人は立っている。





ギー山ビリ関係性脳内まとめ的な
第三者を名前で呼ばない関係。