さくり、さくりと、歩く度に足元の真っ白い砂が音を立てる。 さくり、さくり、このまま足元から吸い込まれて無くなりそうだ。 死んだら地獄に落ちると半ば確信はあったが、どうやらそうではないらしい。 気がつけば、この一面砂漠のような場所に私はいた。砂以外何も見えず誰もいない。 全てから忘れ去られ、己の事を考えるのに飽きた時、この体はさらさらと崩れてしまって砂になる。 ――今だって気を抜けば、ほら爪の先からぼろぼろと形をなくす。 そうしていつしか新しい人の形となり、下界に行き、また誰かの魂となるシステムらしい。 生前の報いを受ける事無く、どいつもこいつも死ねば皆砂となるのだ。何ともまあ、簡単に出来ている事だ。 ――レッド。 皮肉にも私を殺したお前により、未だ私は存在している。お前が下で私を探し、思う限り、この砂の身体は存在を許され、砂で出来た脳は思考が出来る。 気を抜けば風が吹いただけで崩れる砂の身体であるが。それでもまだ私は此処に、ヒィッツカラルドとして在るぞ、レッド。 ここからは地上も臨む事が出来る。とにかく暇でやる事も無いので私は組織を見ている。お前の姿も私には見えている。 ――泣くな泣くな、童ではあるまいし。探すな探すな、何で私がお前の部屋のクローゼットにいると思うのだ。 けれどもお前の涙が私の血となり、お前の声を吸い込んで私は在る。出来れば私は何の助けもなしに、一人で在りたかったのだが、それは不可能のようだ。死んでまで己を維持させる残るほど強い感情というものは滅多に無いらしい。 死ぬ直前まであった恨みや憎しみはどこかに消え去ってしまった。今の私は酷く穏やかで――はて、何が私を繋ぎとめているのだ? ああ、お前のその苦しむ姿を見て、この砂の身体のどこかが軋んで、その痛みが私の輪郭を明確にさせている。その痛みゆえに私は思考をめぐらす。 ――存在したくない訳ではない。 けれどもお前が苦しむ事と天秤で釣り合いが保てるほど今の私の存在に価値があるとも思ってはいない。今の私は死人だ。あと暫くすれば、無になり、ヒィッツカラルドという存在は消え去る。お前に見返りは無い。 さくり、さくり、真っ白い砂が音を立てる。 さくり、さくり、大丈夫だ、まだ消えない。 さくり、さくり、明日はどうかね? 残念だがお前には会えそうもないな。恨み言の一つも言いたかったがどうやら無理のようだ。 お前が考えるのをやめた時、きっと私は何処にも無いだろうから。音も無く崩れ去り、この砂の一粒となるのだ。 だから、泣くな、泣いても何も変わらないぞ。探すな探すな、私は此処にいるのだから。 どうせその内お前もこちらに来る事になるのだから。そうしてお前もいつしか砕けてこの足元の砂と同じになる。 そういう、原理だ。それでもお前はまだ諦めないのか。私の声すらお前に届く事は無いというのに。 さくり、さくり、まるで砂が泣いている様に聞こえる。 さくり、さくり、ああ、泣いているのは私か。 さくり、さくり。 さくり。 |