さよなら人類
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首筋を柔らかく掴む指は細くひんやりとしていて、爪先にはきれいに塗られたマニキュアがてかてかと蛍光灯を反射していた。
親指と中指、それに添えられた薬指と小指で後ろの壁に縫いとめられたように山崎は動けなかった。唯一自由である人差し指が唇にあてられる。指の腹は柔らかく、あまりに他の指に込められた力とアンバランスで、山崎は口を歪める。
「何笑ってンだい」
「暇なんだから、仕方ねェだろ」
逃げないわけではなく、逃げられない。体を少しでも捻ろうとすれば手に力が込められる。さっきからずっとこれだった。
女がそうしたいと望むのなら、このまま喉笛を握りつぶすことだってたやすいのだろう、きっと。
「で、何だァ?俺にどうしろって?」
「いい加減こっちに来ないか、って思ってね」
「……今はそういう気にゃなれねェなァ」
「あんたの性じゃそっちは退屈だろ?」
細まった目が縦に割れているように見えて、山崎は思わず瞬きを繰り返した。錯覚にすぎない。それでも目の前の女は、純粋な人間とほんの少しばかしずれているのは確かなのだ。緩い力でゆっくりと殺される心地がする。
「そうでもねェな」
「ふーん」
心底つまらなさそうに呟いたあと、女の手が首を離れてポケットに入れたままの左腕に触れようとしてきた。慌てて山崎はバイスごと振り払う。そこばかりは、少しでも触られたらお終いだ。
「あら」
「……とにかく、何言われようが乗る気は無ェよ、帰んな」
「いつでも歓迎するンだけどね、あんたなら」
薄くバイスが笑って、くるりと背を向けた拍子に丈の長いスカートが綺麗な弧を描いた。何事もなかったように、またね、と後ろを向いたまま細い手がひらひら振られる。
バイスの姿が見えなくなってから、山崎は彼女の手首の細さを思い出した。ずっと掴まれていた首はきっと死人の色をしているのだろう。
知らなかっただけで、もうずっと大昔の約束に縛られている。自分と女の間には受け入れたか否かの違いしかないのだと、まだ山崎には認める気にはなれなかった。



タイトルはたまから