無意味ドキュメント
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さっきから何かを言おうとしては、ああ、だとか、だから、とか言葉にもならない呟きめいた音声しか目の前の後輩は発していない。さっき、お前最近考え込んでるけど何かあるのか、俺に何か出来るか、なんてよくある励ましを言ってからずっとこの体たらくだ。
先輩、と呼ばれた。ようやっと考えがまとまったらしい。目がすわっているのが妙に気がかりだった。
「まず、先輩と僕の間は、持ってるものと持ってないものの差が大きすぎるんです」
「例えば、何だよ」
宙に視線をやってから、ゆっくりと口を開く。
「……あー、何ですか、選択権?」
「何だァ、そりゃ?」
「だから、先輩はご立派に戦えるじゃないですか。出来るッて事はその逆も選べる、って事ですよね?だから、ひどいなァ本当」
そう言って、またさっきの呟きモードに入りかける。本人はいいかも知れないが、傍にいる方は暇で仕方ない。話終わりなら帰るぞ、と言ってやれば待ってください、とぴしゃりと即答された。お願いがあるんです、とも続けられる。
「ほんっと、ええ、これっきりです、きっと。僕があなたに物を頼むだなんて、そんな茶番。ああもう、こうやって口にしようとするだけで気持ち悪い」
「御託並べてねェでさっさと言え」
ぐい、と口も目も一文字に引き結んだ後、死んでくださいよ、と息を吐く時のようにさらりと言われた。予想をかすりもしなかった答えに、怒るとか怒鳴るよりも先に呆気にとられる。
「出来るか、阿呆」
「僕は、阿呆でも臆病でも無能でも何でも良いですから、俺に何か出来るかなんてそんな、そんなひどい事言うくらいなら、」
死んでください、と物騒なことを又この後輩は単調に繰り返した。
「石だって箸だって櫛だって、誰かを殺せればそれは武器ですし戦場だったら兵器です。けれど僕の持ち物で、武器にも兵器にもなりそうなものはないから、だから僕は、先輩殺したくても無理ですから、」
死んでください。三度目だった。流石に気分が悪くなる。こいつの論点がどうにも論破出来ないところだけに余計にだ。
「お前なんか次の戦場で殺してもらえ、クソッタレ」
「はは、僕死にませんよ、すぐ逃げますし。死ぬの先輩の方ですよ、きっと」
そう、乾ききった笑い声とともに言い捨てられる。こんな風に話していると、自分がとても悪い事をしてしまったような何とも言えない気分に襲われる。銃声が聞こえた気がした。気のせいだとわかっている。それでも、耳にもうすっかり馴染んだ音はいつだって聞こえるようになった。
「お前、そんな戦いてェのか」
「……別に」
「なら、なんで、」
「だから、先輩がいらいらさせてるだけですよ」
そう言って全身を震わせてげらげらと笑う。思わず息を呑んで睨み付けると、次の瞬間にはぴたりと動くのをやめておとなしくなっている。怯えた訳でも無く、単に笑うのに飽きたという方が近い。この先何年経とうが、死ぬまでこいつの事は理解出来ない。予感ではなく確信に近いくらいにひそかに思う。

「ねェ、死んで何の花供えて欲しいですか?」
「……死ね、本当に。ぼろくずみたいになって死んじまえ。そうしたらお前の墓の前で泣いてやれる」
「あ、僕泣く方がいいです」
「なッ……」
「まあ、どうせどっちもしないんでしょうけど。多分忘れますよ」
先輩も僕も、と付け足してちいさく笑った。
「だって僕たち兵器じゃないですか」




なんかもう言う事も無いんですが、これだけは。
not擬人化です。(2006か2007年秋)