変な夢だった。テレビを見ていたらいきなり大音量でけたたましく震え出して、止めようとスイッチを押しても押しても音はやまないから放っておいたら目が覚めた。それなのに音はまだ鳴っている。
起き上がって音がする方を見れば、テーブルの上でビリーの携帯が鳴っていた。

まだ半分寝ぼけた頭を振って、とりあえず携帯を手に取ったもののどうするべきか悩んで結局持主の耳に近付けてみた。少しばかり待っていれば、ビリーがはね起きる。早朝の空気が肌に沁みるのか、体を震わせてから目を乱暴にこする。
「携帯、どこだ……」
「ほれ」
まだ震えている携帯を投げると、ビリーは青白く光る画面を見て、まだ半分くらい寝ていた表情を一瞬で険しくした。一つ舌打ちして、床に落ちていたズボンを拾って素早く履く。
「……どうした」
「会社」
こちらを向いてそれだけを放るように言い、ビリーは携帯を耳に当てた。肩と首の間に挟んで返事をしながら、寝室を出る。廊下で何度か声が聞こえた後すぐに戻ってきた。
「わりぃ、仕事入った」
「……そうかよ」
「すぐ来い、だってよ。あー面倒くせェ」
「大変だなァ、サラリーマン」
「ほっとけ」
あくび交じりに話しながらも、ビリーは床に落ちてたジャケットを拾って袖を通したり、財布を尻ポケットに突っ込んだりとせわしない。
「電波届かねェとこにでも行くしかねーな、こりゃ」
眉根を下げて困ったようにビリーは笑って、携帯電話をジャケットのポケットにしまった。
何かあったのか、と聞こうとして山崎は口をつぐんだ。誰か死んだかこれから死ぬのか、選択肢は限りなく少なくて、ビリーがこれからやることも同じくらいに少ない。
「……言っとくがテメェじゃねェよ。知らねー奴」
「あ?」
「変な顔すんなってェの」
言葉と同時に頭を軽くはたかれて、ビリーに困ったようななだめるような顔で笑われた。
パンツ一枚で殺し合いを始めるのも、準備を整えてから何もなかったように始めるのも、どちらにせよ馬鹿らしさは変わらない気がした。後者の方が終わった時に多少格好がつくというだけだ。
「ビリー」
手招きしたら寄ってきた男の頭を引き寄せて、山崎はがしがしと乱暴に撫でた。一瞬びくりと震えた後、男は離れようとしたが知った事ではない。さっきまで温かい毛布にいたというのに、もう男の頬は冷えていて、それが妙に山崎の中身を掠った。
「どうしたんだよ、お前」
「知るか」
正直、山崎の方が聞きたいくらいだった。ただ、何もせずにこの男を部屋から出したら後悔するような、そんな気がしただけだった。まだ寝ぼけているのかもしれない。
寒くなったので毛布にもぐりこむ。
「へいへい……またな」
返事をするのも億劫になってきて、山崎は横になったまま手をひらひらと振った。
「おい、鍵どうすんだ」
「……開けとけ。起きたら閉める」
不用心だな、と呆れた声がしてからしばらくたってからドアが閉まる音がした。もう一度寝なおそうと山崎は目を瞑る。
さっき見ていた夢もおぼろげにしか思い出せない。ビリーが部屋で寝ていた事もいきなり出ていく事も全部夢に近い。眠気はすっかり覚めてしまったというのに、夢が覚める気配がちっとも見えやしない。



山崎にビリーの事サラリーマンって言わせたかっただけなのにどうしてこんな長くなるんだろう