付藻神 ------------------- ヒィッツカラルドが廊下を歩いていた時の事。 眼前に、二日前に任務に出たばかりのレッドの姿見つけ、こんなに早く帰るとは、何かやらかして孔明に途中で降ろされたかと思い、随分と早いお帰りだな、とからかえばくるリ振り向いてつかつか足音立てて歩み寄ってくる。これは虎の尾でも踏んだかと身構えていれば、レッドは背の剣に手をかけた。 間一髪、服のみ斬らせて避け、何をする貴様ッ、とヒィッツカラルドが叫べどもいつに無く無表情のレッドは答えず剣の切っ先を向けてくる。 馬鹿め乱心したかと、ヒィッツカラルドは指を鳴らしレッドの左腕を斬った、が、手応えもなく血も出ない。混乱した頭のまま地を蹴って逃げれば追って来る足の音。これはいかんと、途中にある残月の執務室に飛び込み一先ずやり過ごす。 足音が去っていくのを確認した後、怪訝な顔をした部屋の主に事情を説明すれば、日頃の鉄面皮はどうしたか、腹を抱えて机に突っ伏し笑う笑う。その様子に、ヒィッツカラルドは気恥ずかしいやら腹立たしいやらでむくれて仕方が無い。 「どうした、ヒィッツカラルドともあろう者が散々だな」 「黙れ、貴様はアレに会ってないからそんな事が言えるのだ」 「アレ、と言うのはレッドの事か?確か奴ならまだ帰っていないぞ、孔明の作戦でもあと三日はかかるそうだ」 「なら私が見たのは何だというのだ?」 「夢でも見たのだろう、何なら休暇でも取ってきたらどうだ」 「夢がスーツを斬ってたまるものか」 など、ああでもないこうでもないと言い合っておれば、ドアが急に開き怒鬼が駆け込んできて、慌てて閉める。肩で息をする背中に、ヒィッツカラルドが一言、レッドかと聞けば振り向き、じっと片目を向けた後一つ頷く。肩口の布地が綺麗に裂けている。 ヒィッツカラルドが勝ち誇った顔で残月に言ってのける。 「ほうれ見ろ、まさか二人で同じ夢を見ることはあるまい」 「しかしそれでは説明がつかんぞ」 そうこう話していれば扉が乱暴に開かれ、まさに話の原因、スーツに鎖帷子赤の仮面のレッドが入ってきて、手近にいた残月に無造作に斬りかかる。残月は素早く身をかわし、怒鬼もヒィッツカラルドも素早く距離をとる。 「……すまん」 「詫びは後で聞こう、今はアレを何とかするぞ」 「うむ」 三人顔をそろえて頷いた直後、一呼吸する間に残月が、いつの間にか両手に構えた無数の針でレッドの体を射抜いて動きを止めた。即座に怒鬼が棍を伸ばして貫き体を壁に縫い付ける。今が機、とヒィッツカラルドが指先に力を込め、ぱちりと音を響かせれば、レッドの姿をしたものは真っ二つに裂けた。幻のように身体は消え去り、からんと音がした後には、二つに割れた真っ赤な仮面だけが落ちていた。 後日任務から帰ってきたレッドが、仮面が一つ無くなったと騒いでいたが、残月、ヒィッツカラルド、怒鬼、それぞれ皆知らぬ存ぜぬで通せば、いつしか言わぬようになり忘れたとか。 曰く、強い念が込められたり、長く使われたものは時に意思を持ち動き出すという、これを付藻神と呼ぶ話。もしくは飼い猫が主人に似るというように、物も主人に似るのかもという話。 |